あ~イク恋愛生欲情の扉

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2024年 4月 の写メ日記一覧
宝乃ありな

宝乃ありな(26歳)

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あえいで ゆがむ おじかん です

あえいで ゆがむ おじかん です

のりこちゃんの描く女の子は、いつも裸だった。
目の上で、ぱつんと切った前髪の愛らしい顔立ちの女の子が、幼児体型で描かれる。
女の子は短い手足を伸ばして、部屋の中で大の字になる。
外に出掛けて、花を摘んだりする。
湖で泳ぐこともあり、マフラーだけを巻いてスケートに興じたりもするけど、
共通するのは、常に一人きりだということである。
女の子はひとりで遊び、ひとりでたらふくごはんを食べ、酒をのみ、ぐうぐうと眠る。
ときどき、オナ、ニーをしていることもある。
「また裸だ。なんで裸ばっかり書くの?」
「裸が好きだから」
「そうかあ」
そんな会話をしたのを覚えている。
そんな、のりこちゃんが男遊びが激しくなったのは、いもこが把握している限りでは、17歳の頃だったと思う。
いもこが思うに、
その頃から、のりこちゃんは素の自分を表に出し始めた。
ダイエットもしなくなったし、いっぷう変わった帽子をかぶり始めた。
可愛いのりこちゃんには、言い寄ってくる男が、たくさんいた。
それは、まるで石をどかしたら、隠れていた虫たちが沸いてくるように出現した。
のりこちゃんは、きっと、石をどかしたのだ。
かのじょを押さえつけていた漬物石みたいな重たいのを、美しい指で。
そんなふうに遊んでばかりいたのりこちゃんは、男に恨まれ、ある日、硫酸をかけられた。
顔が焼けるのをかばうため、手で制したのりこちゃんは、指を失った。
利き手を失ったのりこちゃんは、二度と絵を描けなくなった。
それから月日は流れ、
現在、のりこちゃんと、いもこは、35歳。
のりこちゃんは、今も可愛いし、結婚もしている。
今も可愛くて、そして、指がない。
のりこちゃんは、最近、旦那以外に、彼氏が出来たみたいである。
指がなくなっても、
相変わらず、のりこちゃんは、のりこちゃんのままである。
のりこちゃんは、よく、のろける。
「そんなにイイんだ?その男」
「うん。
こんなに好きになった男、はじめてだわ」
「旦那にバレないように楽しまなきゃね」
「うん、うちの旦那は嫉妬深いから、バレたら、やばい」
そんな、ある日、いもこは、のりこちゃんの彼氏と、せ、っくすをした。
お世辞にもイケメンとは言えない。
だけど、せ、っくすが、とても、いいのだ。
その男は、とてもよかった。
端的に言えばセクシーだった。
小太りのくせに指や手首の末端が細く綺麗で、からだを重ねると、ぶよぶよとした肉越しに感じる骨も、きっと綺麗だと思われる。
衣服を身に付けているときよりも、脱いだ時のほうが、存在感がある。
ゆっくりゆっくりした指の動きで、いもこのことを昇らせた。
いもこは今まで、せ、っくすはしたことあるけど、イッたことはなかった。
35歳で初めての絶頂を迎えた。
初めて昇りきったときの感覚を、いもこは忘れられない。
すごく、よかった。
初めて酒を飲んだ時よりも、頭も体もほどけていった。
門をくぐったようだった。
なんの門かは、わからない。
終わりというものを見たような気もした。
なんの終わりかは、わからない。
しかし、繰り返される質のものだと、すぐに分かった。
何度でも終わる。
そうか、のりこちゃんは、彼の指で、こんな快楽を感じていたんだ。
こんな快楽、のりこちゃんだけが、ひとりじめするなんて、ずるい。
彼が、いもこの上になって運動をしている間、いもこは、うっとりと彼の背中に手を回していた。
指で彼の背骨を確かめてみた。
ここにメスをいれたら、どうだろうか。
いもこは、彼の体にメスをいれてみる想像をした。
脳天から肛門まで、かっきり二等分に分ける。
黄色いプリプリした脂肪が、ぬいぐるみの詰め物のように飛び出すだろう。
そしたら彼は、みるみるうちに、しぼむのだろうか。
いもこは、彼の形の皮を綺麗に洗い、お金持ちの家の居間にありそうな虎の敷き物みたいに、なめす。
それを、かぶって、彼になりすまし、なにくわぬ家で帰ったり、彼になりすまし、出社したり、彼になりすまし、のりこちゃんとせ、っくすをする。
そんな妄想をして、吹き出しそうになりながら、いもこはポーカーフェイスを装った。
そのあと、彼とせ、っくすをしたことが、のりこちゃんにバレた。
のりこちゃんは遊び人だけど、
どうやら彼には本気で惚れていたらしく、激怒して、いもこと縁を切った。
いもこは悲しくなって、のりこちゃんのことを尾行したり、待ち伏せしたりした。
「なんなのよ、あんた気持ち悪いわね」
と、ますます嫌われてしまった。
「どんな神経してるの?」
と怒られた。
その台詞を、のりこちゃんにだけは言われたくない、と思った。
旦那いるくせに。
塩酸かけられても懲りないくせに。
いもこだって恋ぐらいしたこと、ある。
その人のことを考えると、いもこの呼吸はため息に変わった。
いもこの初恋は十三歳だった。
その人に出会うまでに十三年もかかってしまったという気持ちは、後悔に少し似ていた。
のりこちゃんに嫌われ、のりこちゃんに会わなくなってから、いもこは久しぶりに幼なじみのヨシオと再会した。
ヨシオは、のりこちゃんの元カレ。
のりこちゃんに塩酸をかけた男である。
「ひさしぶりー」
いもことヨシオは昔話で盛り上がった。
「おまえ、むかし、おれのこと好きだっただろ」
ヨシオが唐突に聞いてきたので、いもこはヨシオのことを見つめ返す。
「だから、のりこが浮気していることを俺におしえて、関係をこわそうとしたんだろ」
誰がお前なんか、と思いながら、いもこはポーカーフェイスを装った。
いもこが好きなのは、のりこちゃんである。
関係を壊そうとしたのは事実である。
だって、のりこちゃんを取られたくなかったからである。
まさか、ヨシオが、のりこちゃんに硫酸をかけるって展開までは想定外だった。
のりこちゃんの綺麗な指がなくなったことは、いもこも残念だった。
好きで好きで、たまらなかった。
よしおと解散したあとに、
いもこは、のりこちゃんの彼氏と会って、再びせ、っくすをした。
のりこちゃんの彼氏は、いまだに、のりこちゃんと付き合っているらしい。
のりこちゃんの彼氏は、独身で、マイホームに住んでいる。
いもことのせ、っくすが終わり、
彼がいびきをかいて眠っている。
彼からはアルコールと油ねんどの匂いがする。
ねんどというより下水のにおいだ。
ベッドにあがり、彼の下腹部に股がった。
彼がいびきをかきながら、ときどき舌を鳴らしている。
美味しいものを食べている夢でも見ているのかもしれない。
クン、ニしている夢でも見ているのかもしれない。
誰のことクン、ニしているの?
のりこちゃんのこと?
やめてよ。
たとえ夢の中でも、もう、のりこちゃんに近寄らないで。
いもこは、
爆睡している彼のことをベッドに拘束した。
そのあと、いもこは彼の体から、そっとおりて、台所に行き、キャノーラ油とオリーブオイルを手に取る。
ガソリンと蝋燭は、もともと持参してきた。
ガソリンは匂うから、目をさますかな、と少し心配したけど、彼に起きる気はなさそうだ。
ブリキのバケツを手に持って、マッチで蝋燭に火をつけていく。
彼の体を二重に取り囲んだ蝋燭の、内側、外側と交互に火をつけていった。
半周したところで、彼が動き出した。
熱くなったのだろう。
あーもー、動くな豚野郎。
彼は寝返りを打とうとして、
拘束されているからそれも出来なくて、でも熱くて、無理に腕を動かそうとしている。
うごくな、うごくな、ぶたやろう!
いもこは急いで、マッチを擦って、次の蝋燭に火をつけようとした。
彼が暴れるので、ベッドが軋んだ。
嫌な軋みかただった。
蝋燭が倒れた。
油とガソリンを染み込ませたシーツに引火して、炎が上がった。
シーツが燃え始めた。
黒い縁取りの焼け焦げが、まるで三越の包装紙の模様みたいに広がっていく。
いもこは焦り過ぎて、火のついたマッチをベッドに落として、そこからも火の手が上がった。
大慌てでベッドの付近に避難した。
そのあと、外に飛び出した。
だけどスマホを中に忘れてしまった。
のりこちゃんから連絡がくるかもしれない。
仲直りしようって連絡がくるかもしれない。
あんだけ嫌われたから、
そんな期待はむなしいだけとわかっているけど、いもこはスマホをとりに戻った。
まだ間に合うかもしれない。
寝室のドアのノブに手をかけた。
熱くていったん、手を離した。
長袖のTシャツを引っ張って、手をくるんでドアを開けた。
熱気が押し寄せてくる。
煙で中の様子が見えない。
いや、なかが見えないのは煙のせいではなくて、においのせいで目を開けていられないのだ。
彼が焼けるにおいが充満している。
いもこは勇者のように奥へ奥へと進んでいく。
彼の死体を見てみたい気持ちもある。
足の裏が熱いと思ったのは一瞬の出来事で、たちまち他のところも熱くなり、耐えられないほど熱くなり、どこが熱いのかわからなくなる。
痛いのか、熱いのか、わからない感覚のなかで、いもこは倒れた。
いもこの口から魂のようなものが出ていった。
薄れゆく意識のなかで、
いつだか、のりこちゃんが描いていた、おかっぱ頭で幼児体型の女の子の絵を思い出した。
あなたの燃えた指は、どんな匂いだったんだろう。
会いたい。会いたい。
そのあと、いもこは、おかっぱ頭の女の子に生まれ変わり、ブランコを漕いでいる。
まだ小さくて幼いいもこは、上手に自転車を漕ぐことが出来ない。
ママは右手の指がないので、いもこの背中を左手で押してくる。
ママに、ぎゅーっとされると、なぜか悲しくなる。
ママのスカートに顔をこすりつけて泣くと、
「あら、どうして泣いてるの」
と聞かれた。
「ううん、なんでもない」
よくわからないけど、なんだか、むねがぎゅーっとなる。
だいすき、と、ママに言った。
「ママもよ」
と答えてくれた。
「わたしが、いちばん?」
と聞くと
「もちろん」
と言う。
いちばんすきだよ。
その言葉が、
うれしくて、うれしくて、なんども、顔をこすりつける。
まだ小さい、いもこは、うまく言葉が表現できない。
ままのことが、だいすきよりも、ずっと、だいすき。
うまれるまえから、ずっと。
わたしは、うれしくて、だから、かなしい。

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